うれしいこと

 友人と「学力テストシンポジウム」に行く約束をしたので、日曜だけど早起きして九段下まで出かけていった。高田馬場で降りた時、ふと後ろから袖を引っ張る人が。お母さんと中学生ぐらいの子供……「ゆーじ先生、わかりますか?」……わかる!わかるんだけど誰だっけ(教員ならこの感覚、分かってくれるだろうか)。仕方がないから聞いたら、初任の時に最後にもった学年(4年生)のJくんだった。そういわれてみると一発だ。大きくなったなあ!立派な好青年になったのが嬉しい。
 彼は4年生の時はちびっこくて、スポーツ万能だった。小さな体にあふれるエネルギーを持て余すような、考えるより体が動く彼のことを、僕は心の中で「野獣派」と呼んでいた。ドッジボールの球を誰よりも早く全力で追いかけ、思いっきり転んだ拍子にボールを追い越してしまい、球は他の人にとられるような人だった。走るフォームは誰よりも目茶苦茶なのに、誰よりも早いという、まさしく野獣派だった。
 小さかった彼も大きくなり、いまではお母さんより大きくなっていた。駅のホームで嬉しそうな顔のお母さんと、彼のちょっと困ったようなはにかんだ笑顔。「すっかり大人になりましたね」と僕がいうと、お母さんは「体ばっかりでかくなって、心がねえ」と恥ずかしがるように笑った。
 この子のクラスとは1年間のつきあいだった。その学校での自分の最後の年の子供たちであり、あの時なりに過ぎゆく時間を大切にできた1年間だったと思う。同時に自分の教員としての方向性を決めていくクラスだった。その時の子たちが、大きく立派に育っている姿を偶然に見ることができたのはなんともいい日だった。神様のちょっとした思し召しに感謝した。