日本人のしつけは衰退したか

 面白かったから紹介しようと思ていたけど、忙しくてなかなかできなかった一冊。しつけや家庭に対して過去のデータにあたりながら、昔のしつけはしっかりしていたという幻想を崩し、今の家庭が「しつけ」についてどのような役割を負わされているのかを論じた一冊。1960年代までの調査では農村部などでは家庭教育はむしろ放置に近く、しつけを学校に期待する結果も出ているというのがおもしろい。
 本書が様々なデータから考察しているには「家庭の教育力が低下している」というのはイメージにすぎず、「教育に関する最終的な責任を家族という単位が一身に引き受けるようになった」ということだ。それは僕が教員をしてきて感じる印象と一致している。もちろん教育力の乏しい家庭はあるけれどそれはごく一部で、どの時代にもあったと思う。むしろきちんと子どもを教育しようと努力している家庭が多い。
 家庭教育力が低下しているという物語にのせてしまえば、凶悪犯罪も学級崩壊もなんだか説明されちゃった気がするからラクチンだ。自分たちの目の前にある当たり前の家庭をみていけば、そんなに家庭教育が低下してはいないのだというのはわかる(目の前にある家庭だけでは母集団が小さいかもしれないが)。今の社会がどのように変化してきて、家庭がどんなことにさらされているのかを考えるのに参考になる一冊だった。

日本人のしつけは衰退したか (講談社現代新書)

日本人のしつけは衰退したか (講談社現代新書)