岩手、日本の原風景へ 8月4日 東京〜平泉

 話は一日前の8月3日。旅に備えて早めに布団に入った。……しかし、寝たのはいいんだけど目がさえて眠れない。寝ては起き、寝ては起きを繰り返して結局眠れず、薄明るくなってきた4時頃になって、寝ようとする努力をやめた。どうせ旅の間は疲れて夜はバタンキューで倒れるように寝てしまうのだ。居眠り運転だけしないように気をつけよう。たぶん今日は初日の興奮でアドレナリンで眠くはならないだろう。
 ずっと起きていたとはいえ、横になっていたからそれほど疲れてはいない。寝るのをやめて出発の準備を始めた。部屋着のままアパートの横に置いておいたセブンの所に行き、フロントガラスにガラコをぬりたくる。岩手はそうでもなかったが、朝の予報で東京は4時から雨が降るということだったからだ。いまのところ降ってはきていないが、空には雲が厚くたれこめている。いつ降ってきても不思議はない。セブンの旅は用心するに越したことはないのだ。
 4時40分、出発。雲に隠れて日は見えないが、夜が明けたのだろう。薄暮のなか、セブンのボンネットが鈍く光る。サイドパネルは磨いていないので光らない。ちゃんと普段から手入れしないと、ちょっとかっこわるい。
 ともかく出発し、大泉ICに向かう。早朝だけあってほとんど車はいない。5時3分、大泉ICから外環に乗った。大泉から高速に乗るときは、だいたいそのまま東北道に乗るときなので、これから旅にでるぞという気持ちが盛り上がる。盛り上がっているところにも関わらず、東北道に入る直前からパラパラと小雨が降り始める。雨粒が小さいのでフロントガラスに霞がかかったように曇っていくが、だんだんその雨粒が集まり始めるとガラコ効果で雨が飛んでいきはじめて気持ちがいい。幸い激しい雨にはならず、ビキニトップの下にいる自分が濡れることもなかった。
 走りながら朝ご飯をどうしようと考えた瞬間、家におにぎりをおいてきてしまったことを思い出した。戸締まりとかガス栓などはばっちり確かめてきたのに、そんなものを忘れてくるとは……戻ってきたときがこわい。ちなみにサブカメラとして持ってきたTZ7のバッテリーも忘れてきたことが判明。情けな〜い気持ちになる。
 幸い雨はその後降り続くこともなく、栃木か福島のあたりでは晴れ間も見え、照るお日様にちょっと汗ばむくらいになってきた。しかし、安積PAで宮城の方に雨の表示があったので、ビキニトップはしまって幌を張ることにした。とはいえ左ドアはトノカバーのままなので通気はいい。風の巻き込みが少なくなり、以外と居住性が増したので眠くなりつつも走りに走っていくが、結局雨に降られずにすんで助かった。11時35分、一関到着。移動距離ここまで475km。給油したけど何リッター入れたんだか記録を取るのを忘れてた。
 一関の近くに厳美渓があるので、まずはそこへ向かう。渓流美はなかなかのもの。名物は渓流もそうだが、川向こうからかごに入って飛んでくる団子もまた名物だ。岩の上にある東屋の木の板をコンコンたたくと、それが合図で団子の入ったかごがピューッと飛んでくるのが何ともいえずユーモラスだ。厳美渓はそれほど大きな場所ではないので、歩いて20分ほどで通過した。

厳美渓入り口の所から見ると、断崖の岩の上が庭園のようになっている。


厳美渓のメインの景観。

一番最初の写真の東屋に木の板があって、そこをたたくと団子が飛んでくる。

団子はお茶付き。なんともユーモラスだ。僕は別なところで団子を買って食べた。団子がこの辺の名物らしい。
 そこから猊鼻渓に移動。今回、出発直前にiPhoneでナビソフトをダウンロードしてきたのでそれを使ってみた。ちゃんと地図がでてくるし、曲がる前には「ポーン、500m先右折です。」などと教えてくれる。以外に使えるので便利だ。最大の欠点はソフトバンクの通信圏内でないと使えないということなのだが、ナビが必要になるのはだいたい都市圏なので、それはそれで役に立つだろう。
 とかやっていたらとりあえず猊鼻渓に到着。ローカル線の鉄橋がいい味がでている。ここは川下りがあるので、それに乗らないことには名物は見られない。あと10分くらいで出発なので取り合えず券を買う。1500円なり。


船の時間を待つ人々。家族連れも多い。古い鉄橋がいい味出してる。

出発直後。帰ってきた船とすれ違う。

広角レンズの歪曲収差がそそり立つ断崖を演出している風に撮ってみた。

魚がたくさん泳いでいて、お子さんはそっちの方が気になる様子。

女岩。女性の横顔に見えるらしい。向かいにある大岩が男岩らしい。
 川の涼しい風と夏らしい青空がうれしい。船頭のおじさんのなまった解説と、時折はさまれるしょーもないオヤジギャグが味わい深い。オヤジギャグにいちいち沸く乗客たちもまたいい。川下りの船とすれ違うときにはお互い笑顔で手を振りあう。
 途中、急流で船が進めないのでそこからはちょっと歩いていくと猊鼻渓の名前にもなった獅子岩(猊鼻岩)がある。岩の穴のあいたところに「福」とか「願」とか書いた小さな小石を投げ入れると願がかなうらしい。みんなで必死に投げていたけどなかなか入らない。そんな中5発中2発か3発入れていた人がいて、さりげなく尊敬を集めていた。

最後の名所の猊鼻岩。猊鼻とはライオンの鼻を表すらしい。

猊鼻岩から振り返ると、鮮やかな青空が。岩に露出をあわせれば空が白く飛び、空にあわせると岩は黒ツブレする。難しい。

下りにはおじさんが追分を歌いながら下る。船頭さんは若い女性もいるようだが、追分はやはりおじさんが似合う。
 帰り道も川下り。緩やかな流れで上りも下りも川下りでいけるのがうれしい。船頭さんによると、全国で川下りをやっているところは14カ所あるらしいが、登りも下りも船で行けるところはここだけらしい。戻るのも船で行けるので、写真を撮るときも安心だ。
 船で腰を据えていけるので、次々とレンズ交換をしながら写真を撮ってみた。広角レンズを中心に、いろいろ撮ってみた。遠くの方にいる別な船を望遠で撮ってみてもおもしろい。RAWで撮ろうかと思ったけど、メモリが足りなくなりそうなのと現像がめんどくさそうだからちょっとやめた。でもためしにRAWにしとけばよかったかな。


そそり立つ岩が美しい。望遠レンズで断崖と船を圧縮効果で並べてみた。

船頭さんと電車と鉄橋。慌てて撮ったのでジャスピンきてないのが悔しい。シャッタースピード優先かPモードで撮ればよかった。
 猊鼻渓の川下りはだいたい1時間〜1時間半くらい。十分楽しめる感じだ。平泉に向かう途中、一関のケーズデンキでサブカメラのTZ7のバッテリーとiPhoneのためのシガーソケット用充電器を購入。シガーソケットはいいとして、バッテリーは結構値が張るし、無駄な出費だったなあ。ま、使うからいいんだけどさ。
 ガイドブックを見ると、厳美系のあたりにお堂があるのを発見し、iPhoneにナビをさせながら移動。気のせいかナビをさせてるとiPhoneがすごく熱くなる。ま、GPS全開でプロセッサを動かしているので熱くなるのも当然か。もともとナビ用の機械でもないしな。バッテリーの寿命が縮みそうだから、あまり頼らないようにしたいところだ。
 ちょいと走って達谷窟毘沙門堂に到着。かつて征夷大将軍、坂之上田村麻呂が蝦夷を討ち果たしてたてたお堂らしい(その後、あちこちで坂上田村麻呂の名前が見られる。さすがは征夷大将軍)。大岩から突き出すように生えているお堂はなかなかの迫力。中にはたくさんの仏像、毘沙門像があり、磨崖仏も見られる。なによりこの人のいない鄙びた感じがたまらなく好きだ。

鳥居が美しい。ちょっと日暮れ時の寂しい感じがまたすてき。

岩から直接出ているかのごときお堂が迫力。

磨崖仏が掘られている。ちょっとわかりにくいけど。

お堂の前の弁天堂と弁天池。弁天様は嫉妬の神だから、カップルできちゃいけないぞ。



ちょっとアーティスティックに撮ってみた。

ロンパリ気味の目がちょっと怖いお不動様。

最初の鳥居は25mmズミルックスで、こっちの鳥居は9mmズイコーデジタルで撮ってみた。画角の違いがよくわかる。
 それから平泉に移動し、今日の宿「旅館こまつしろ」へ。昔からある感じの民宿。宿のおかみさんにビールを勧められ、飲んだら「あたしにも一杯ちょうだい」だって。おかみから一杯催促された宿ははじめてだ。その後部屋に戻ったらあまりの眠さに、iPhone片手にうつらうつら……イカンと思って布団に潜り込んだら、そのまますごい勢いで眠った。就寝8時過ぎ。早すぎ。