下流志向

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

 学校からの帰り道、ふとよった本屋で平積みになっているのを手に取ったら教育に関わることも多く書かれていて、思わず面白くて買ってしまった。非常に理屈立てて書かれていて、「そんなに世の中理屈っぽくねーよ」と突っ込みたくなる面もあるが、妙に納得できてしまうことも多い。
 リスク社会になった現代では、自己決定・自己責任で「リスクを個人で背負う」ようなことになっているけれど、困ったことに「リスクを分散することは個人ではできない」ということを著者は述べている。集団で互いに支え合い、迷惑を抱えあうことでリスクは分散してくものだから、「リスク社会を生き延びるということは、決定の正否に関わらずその結果をシェアできる相互扶助的な関係を築くこと」として論じている点は非常に興味深い。つまり、個人主義の自己責任をになればなるほど、リスクは回避できないものになり、どんどん構造的弱者すなわち「下流」が増えていくことになる……ということだ。
 他にも家庭、教育、労働に関わることなどを非常にシステマチックに論じている。システマチックな割には、じゃあニートなどの問題をどうしていきましょうか、という段になると「おせっかいをするのが大事」というなんともウエットなひと言が出てくるのが面白い。
 ここでは「親密圏」ということばが出てくる。地域共同体や親族などで程度の濃淡はあれど、互いに迷惑を迷惑と思わないような「親密な」関係を再構築していくことが、弱者を細かくすくい上げるセーフティネットになっていくだろうとしているのは、僕もまた賛同できる点だ。下町と都会の両方に位置する学校に赴任して、それは実感として理解できるようになった。
 僕は地域の人と新しい「親密圏」を築いていけたらいいと考えている。親密圏のない関係なら、互いの失敗や責任の所在を怒り、保護者はすぐに教育委員会に電話することになりかねない。しかし互いの成功、失敗も含めて「結果をシェアできる相互扶助的な関係」があれば、互いに協力しあって大きな輪の中で子供たちを育てていけるのではないかと思う。